橋本 涼

買い手のモラル

久々に出前を頼んだ日の話

 

注文を終え、息子とトミカ署の建造を終えた頃、

 

「ピーンポーン」

宅配の大学生風の若いお兄さんがインターホンを鳴らし、妻が商品を受け取りに玄関を開ける。

程なくしてリビングに戻ってきた妻が

「唐揚げを忘れたみたいで後から持ってくるって、お兄さんがすごく申し訳なさそうで逆に気の毒やわー、お兄さん怒られるがやろうか?」

お兄さんのミスであれば店長的な人に小言は言われるだろうなぁと思いながら、唐揚げが到着するまで息子とトミカ署にジープを突撃させて待つとしよう。

 

「ピーンポーン」

トミカ署が陥落した頃、再びインターホンが鳴る。

忘れ去られた唐揚げを受け取るべく玄関に向かい、扉を開ける。

 

「どうも、店長です。」

そう顔に書いてあるかのようなオーラを纏った店長的な人と若いお兄さんが玄関先に並んでいた。

 

世知辛い時代である。

「空腹に耐えかねた俺の胃袋が泣いてんだよ、どうしてくれるんだ!」

こんなことを過去に言われたかどうかは分からないが、人の失敗を自分の利益に変えようとする人がいるのは事実であり、近年ではSNSなどで拡散されることもあるのかもしれない。そのリスクを最小限にとどめるために、わざわざ唐揚げの謝罪のために店長自ら来てくれているのである。こちらこそ何かすいません状態だ。

今では「カスタマーハラスメント」なる言葉もあるぐらい、「お客様は神様です」と買い手側が言ってしまっているのだろう。神の剣でミスしたヤツを成敗してやったぐらいの達成感を味わっている人もいるかもしれない。

 

私は唐揚げと謝罪の言葉を受け取って、部屋に戻る。

トミカ署を占領して満足げな2歳に満たない息子を見て、これから待ち受ける様々な困難に立ち向かう強さと、人の失敗を許すことができる大きな心をもった人間に育ってほしいと切に願うのである。

 

 

 

 

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